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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「動いて貰ってすまなかったな、棗」
「あ~ら、随分と殊勝なこと。うまくいったの、愛しの上原サンとは」
思わずぶほっと吹き出してしまうあたし。
「どうなのかしら~、上原サン?」
「……っ」
あまりにストレート過ぎて、どう答えていいのかわからずもじもじしてしまうあたしを見て、須王は手を握り、うんとだけ答えた。
女帝と裕貴くんの前ではあんなことをしたくせに、棗くんの前ではおとなしい。こんな態度が出来るのなら、なんであのふたりの前でもしないのかしら!
怒って手の甲を抓ってやるが、抓られるほどの贅沢なお肉はなく、それでも皮を引っ張ろうとしていれば、反撃とばかりにあたしの指を手の甲に向けそらされ、あえなくギブアップ。
元傭兵を甘く見ていた。
「あらまあ、初々しいカップルねぇ。やってることは初々しくないんでしょうけど」
あたしはまた、ぶほっと吹き出してしまう。
「長年の拗らせ愛、実っておめでとう。傷心の須王を慰めて上げる計画が台無しだわ」
コロコロと棗くんは笑う。
……だけどなんだろう。
棗くんの笑い方は冷ややかで。
棗くんを見知って少しの時間しかないあたしが違和感を感じるのはおかしいかもしれないけれど、なにか、あの艶やかで明るい棗くんとは違う気がするんだ。
なにか線を引かれているような――。
あたしの考えすぎなんだろうか。
「ところで、調査結果が一部出たわ。朗報と悪報、どちらから先に話せばいいかしら」
棗くんの茶色い瞳が、鋭い光を放ってあたしは唾を飲み込んだ。
そこには時折須王の瞳にも見る、昏い闇が見えたからだ。