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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「ではまず、朗報から」
長い足を組んでふんぞり返って、定位置とばかりに棗くんの向かい側に座る須王。
ふたりの世界は特異だし、あたしは小林さんのところの椅子でも聞こえるから、そこで座っていようと思ったら、須王に腕を引かれてよろけるようにして彼の隣に座らせられた。
それどころか、なにかを思ったのかあたしの身体を持ち上げて、彼の膝の上に乗せようとする。
艶々と、しかし冷ややかに光る棗くんの茶色い瞳があたしに一身に向けられた、この羞恥。
言葉にすると〝重要な話だろうが、いちゃつくんじゃないよ〟くらいは、控えめでも言われていそうな無言の威圧感に、〝高い高い〟状態で宙にいるあたしは、須王の手をぱしりと叩くと、フーフーと猫の威嚇の如くに睥睨し暴れて、彼の横に滑り込んだ。
「なんで嫌がるんだよ」
「ここはあなたの住む王宮ではないの! 社会には社会のルールがあるの」
「知ったことか。俺はしたいようにする」
「お膝の上に乗せたら、もう口きかない」
「………」
しかし代わりに手を握られ、王様の手は離れない。
くそ……っ、この男は誰が見ていようが、絶対引かない男だ。
「棗くんがいるでしょう! 親しき仲にも礼儀は必要でしょう!?」
「棗はいいんだよ。なんで棗を気にするんだよ。お前、棗に気があるのか!?」
「気にするところはそこじゃないでしょう? 大体ね、たったひとりの大親友が嫌気さしたら、あなたボッチよ!? いいの、あのプライベート用のスマホに、渉さんの名前しか機能できなくなっちゃうんだよ? そうしたら、幾ら嫌いだと言い張ってもね、実質渉さんが大親友に思われるのよ、それでもいい!?」
あたしの言葉のなにが効いたのか、三度舌打ちした王様はおとなしくなった。