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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 

 棗くんが笑って言う。

「わかられていないあたりからしても、思いきり撃墜してるわね。ご愁傷様、須王。長年喉から手が出るほど欲しくてたまらなかった可愛い女の子と、両想いになれてどれくらいの幸せの極地にいるのか、有頂天になって私に自慢して見せようとしたんだろうけど」

 あたしは驚いて須王を見ると、須王はバツが悪そうな顔で頭を掻いている。

 幸せの極地とか有頂天とか、あまりに似つかわしくないクールな王様。
 だけど否定しないということは、棗くんの言った通りなの?

「……じろじろ見るなよ」

「え、本当なの?」

「悪いか」

 本当らしい。

「………」

「ああくそっ、そのにやけた顔むかつくな」

「うん、上原サンには余裕があって、須王に余裕がないのはよぉくわかったわ。まだまだね、須王の頑張り。ようやく入り口ってとこじゃない? ま、気長に頑張って? 還暦迎えるあたりには、イコールになってればいいわね」

「……くっ」
 
「しかし、大分手懐けたわね、上原サン。この自由奔放な猛獣が、仕事でもないのに、こんなに他人の言うこときいて自制しているなんて」

「お前、ひとを獣のように……」

「あら、だったら優しく上原サンに接してる? 自分の欲を優先して、嫌がる上原サンを無理矢理縛り付けようとしていない? いつも須王、後悔してばかりじゃないの」

 棗くんが意味ありげに笑う。

「それは……。……。……なぁ柚、昨日のセックス、俺……優しかったよな? お前嫌がってなかったけど、あれは俺の愛に応えたんだよな?」

「な……」

 この、真面目くさった顔でわざと訊いてくる……、超絶美形の口下手な男――。

「え、上原サン本当に嫌がっていなかったの? なになに、須王のセックス気持ちよかったの? 本当に感じてお花畑にイケたの?」

 この、身を乗り出してわざと矢継ぎ早に聞いてくる……、クールな女みたいな美貌の男も――。

「何回も俺を置いてイッてたよな。だからお前、お返しで舐めてきたんだよな」

「舐めたってどこを」

「どこだと思う?」

「え、その勝ち誇った顔。まさか……」


「黙って、黙ってよ、黙って下さい!! 本当に黙って!! なにもないから、もう夢幻の須王の妄想だから!」

 もうあたしは涙目で、晒される羞恥にぐすぐすと鼻を鳴らす。
 
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