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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
 
 
「はい、じゃあ準備運動も終わったから、朗報から始めるわね」

 準備運動!?
 なんの!?

 もうツッコミどころが満載すぎて、言葉が口から出てこない。

「黒服達の潜伏場所がわかったわ」

「どこだ?」

「〝天の奏音〟。出家信者が共同生活をしているホームと呼ばれる渋谷本部があるんだけれど、そこに」

「え、じゃああのひと達、天の奏音の信者さんなの!?」

「どうかな……」

 須王が考え込む。

「悪ぃが、皆同じ背広姿でサングラスとはいえ、背格好も似すぎじゃねぇか? 兵隊に条件つけて似たようなの選んでいるというのかよ」

 確かに――。

「あたしの記憶がどうであれ、九年前、天使を拉致しようとした黒服の男と、よく似た男が木場の喫茶店で銃を乱射したし」

「それ、頭だけ公園で見つかったという?」

 あたしは棗くんに頷いて見せた。

「それね、ちょっと探してみたのよ、九年前そんなお蔵入りになった事件があったのか。地元ではなく警視庁の本部の人間が乗り込むほどなのに、なかったことにされてしまった理由はなにか」

「どうだった?」

 あたしは身を乗り出して棗くんに尋ねる。

「ないわ」

「ない?」

「ええ、そんな事件、あなたの地元ではなかったの。九年前の新聞とかをすべて私も目を通して見たわ。だけどない。そんな猟奇殺人のような事件は」

「ええええ!?」

「それと、あなたが拉致されたと訴えたという派出所、公園から駅に向かう間にある一カ所よね?」

「うん、そう」

「そこであなたが話した警官は、どんな感じだった?」

「ええと……凄く若くて、いつもそこにはおじいちゃん警官しかいないから、余計覚えている」

「あなたが話したというのは、学校帰りよね? だから午後五時半から午後七時ぐらいまでの間」

「うん、まさしくそうだね。あの頃はピアノも練習していないから、授業が終わったら真っ直ぐ家に帰れていたから。学校までは電車使って約二十分。五時に大体終わっていたから、早くて五時半だね」

「そう」

 棗くんは、美しい顔を少々歪ませて少し考え込む。
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