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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「どうかしたの、それが」
「うん。確かめたらね、上原サンが行ったという派出所は、九年前の春……私達が高三に上がってすぐあたりには、別のところに移動していたしていたらしいのよ。駅の裏側のところに」
「え!? だってあたし、秋過ぎてそこに行ったのよ?」
「ちょっとこれ見てくれる?」
棗くんは、自分のスマホを取り出して、写メを見せてくれた。
「これ、あなたの家ね」
「ま、まさか行ってくれたの!?」
「ええ。ああ、仕事柄こういうのは自分の目で見た方が早くて、そこは気にしないで」
棗くんがひとりで行動していたのは、こういうことを秘密裏にやっていたからなのか。
「でも、ガソリン代だって馬鹿にできないし……」
「ああ、そういうことは須王にがっつり請求するから大丈夫。元々こいつが、調べろとうるさい依頼主なの。だからギブ&テイクでね」
「い、依頼したの? いつから?」
「お前のマンションに初めて行った帰りあたりかな。ちょっとやばい空気を感じて、情報網がある棗に……って、それはいいよ。で、棗続き」
「はいはい。いい、上原さん。九年前と風景は違うかもしれないけど、派出所があった道を教えてくれる? 家からどう出た?」
「ええと……門を出て左手に進んで……二本目の道で右に進んで、左手に出る公園を過ぎて右側沿いにあったはず」
棗くんが写真を見せてくれた。
「これが公園。そしてこれが右側にあたる場所だけど……」
「ええと、ここらへん。この松の木を越えてすぐのところで」
「ここね」
「うん、多分ここらへん」
棗くんは、ひとまとめにした書類のうちひとつを取り出した。なにか古い地図のようなもののコピーが貼り付けられている。
「これが九年前の四月の段階。見て。ここらへん……もう派出所はその時にはないわ。でこれが十年前の冬。ここにはあるわね、派出所」