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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「上原サンは、その天使の件以外に派出所で警官とお話したことがあるの?」
「いや、ないわ。いつも古い一軒家みたいな建物を見ていただけ。たまに自転車乗るところは見ていた」
「外では?」
「自転車乗っていたおじいちゃんお巡りさんに声はかけたことはあるけど」
「昔から?」
「あたし、高校は電車通学させて貰っていたけど、中学までは学校にも休日にも車だったの。だから高校以前にどうだったのかとかってよくわからないんだ。近所の子と遊ぶこともなかったし、幼なじみ……ううん、友達と呼ばれるものもいなかったから」
「あ~ら、高校では随分と取り巻きが多かったと思ったけど?」
「声をかけてくれるから応答はしていたけど、大体が家族のことを聞かれるのが多くて。家族に会いたいために、仲良くしようとするひとが多くて。だからあたし、家族の話抜きで自分のことを話したのは須王が初めてだったの」
「柚……」
「それまではピアノを弾いていた時が、一番ほっと出来ていたかな。大学も家族の話を隠していたんだけれど、どう接していいのかわからないし、世間の話題にも疎いし、黙っていたら気づいたらひとりぼっちで。だから今、棗くんも裕貴くんも小林さんがいて、そしてなんといっても同性でお友達になってくれた奈緒さんがいるのがとっても嬉しくて。いまだどこまでが嫌われないボーダーなのかよくわからないけれど、こんな状況なのに、皆巻き込んでいるのに、あたし的には一番人間関係で恵まれているの」
そう笑うあたしの視界に、気づけば裕貴くんと女帝がいて、驚いた。
「柚……っ」
女帝が須王とは反対側からあたしに抱きついてくる。
「私もあんたが初めての友達だよ。仲良くしてね」
「うん……」
二十六にもなってなにが友達だと青春していると、誰も笑わなかった。
誰もが友達の存在を強く思っているからだ。
須王は棗くんと。
裕貴くんは入院中の遙くんと。
小林さんだって、須王の友達だ。
そんなひと達が集まって、皆が仲良くなるこの奇跡。亜貴はいたけれど、身内以外で自分のことを口に出来るという友達に、あたしは二十六年恵まれてこなかったのだ。