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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「げっ。棗姉さんの職場でももしかしたら、裏ボスの息がかかっていていいように姉さんが動かされている可能性もあるということ?」
「そ。だから自分の目で見て確かめた資料しか私は信じない。ここにある資料はようやく裏付けがとれたものなのよ。本当に手間よね、身内から出たものが真実かどうかを検証しないといけないなんて」
「お前が追っているのはAOPだけか?」
「今のところね」
「あのさ棗姉さん。黒服、どこから湧いたのかってなんでわかったの? あいつら突然現われて、さっといなくなるだろう? あいつらが柚を拉致しようとしていたのも、実は黒服か柚かどちらかの動向を監視していて知っていた……というクチ?」
「そのクチ。内調もなぜか上原サン、あなたの動きを把握している」
「な、なんで?」
「心当たりがないのなら、黒服が拉致に現れるのと同じ理由に行き当たっているということになるわね」
「あたしがわからないのに、皆がわかっているの?」
「その九年前の柚の記憶とかは?」
女帝が凛とした声で言う。
「そうなると、内調はAOPの前段階が人体に影響している事実を、わかっていて九年も野放しにしていたということにもなるわね」
「あのさ……」
須王が前髪を掻き上げながら、怜悧な眼差しをして言った。
「柚の記憶が、なぜ調べればわかるものにしたのかが気にならねぇか」
「え?」
「バレたくない事実を隠蔽させているというのなら、絶対的にわからない記憶にすればいい。柚が地元に帰ればもしかしてわかるかもしれないことを、なぜそんな記憶にしたのか」
確かに。
「そしてどうして、天使が殺されたという記憶を残していたのかもわからねぇな」
「天使が生きているということを隠すためじゃない? じつは存在していなくて、会ったことがなかった、とかは?」
裕貴くんの言葉に、須王は首を横に振った。