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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「柚は間違いなく、天使と会っている。棗、エリュシオンの〝不瞋恚〟を唄っていたらしい、こいつが聞いた天使の歌声は」
「え……」
「そんな天使の拉致に現れたのが黒服だ。柚を残していくわけもねぇし、天使との会話や歌を消すのが、あいつらの役目だろう」
「上原サン……その喋れない天使って、首に赤い首輪つけていた? こう、前にわっかがついていて」
棗くんが声を僅かに震わせて尋ねる。
「あ、そう。赤い首輪をつけていたの。わっかつけて」
すると棗くんは青ざめた顔をして唇を震わせる。
須王が天井を振り仰いだ。
「なに、どうしたの?」
裕貴くんと女帝が、あたしを見る。
「まるで、さっぱり」
だけど須王と棗くんは、明らかになにかに行き当たっている。
……恐らく、組織での嫌な思い出のうちのひとつに。
「あ、あのさ」
あたしに出来るのは、その空気を払拭してあげることぐらいだ。
「黒服達がいるのって、渋谷なんでしょう。渋谷のどこらへん?」
棗くんは、はっとしたように笑いを作った緋色の唇で弧を描く。
「渋谷の道玄坂の奥ね。天の奏音の本部がある場所は」
「道玄坂って……NHKホールがあるところらへんか。あの近くにあるんだ、あの変な音楽の宗教」
CMで流れるフレーズを裕貴くんが口ずさむと、皆が失笑する。