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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
  

「空? 潰れたということか?」

「それがわからない。店員はおろか責任者もいなくなり私の部下も行方不明よ。物自体がなくなっているんだから、運搬したひとがいるだろうと調査してみてもひっかからない。それどころかビルの責任者、或いはチェーン店の本部長に会いに行って話をしたら、元々そこにチェーン店を出店もしていなければビルを借りていないというの」

「そんな……、だってそこ、ネットで調べたじゃない」

「それがネットからも消えて居るの忽然と。まるで私達の記憶の方が偽りのように。内調の情報部のバックアップサーバーからも消えている」

「内調に怖い物知らずのハッカーが入ったってことか?」

「ハッカー被害に遭ったのか、内調に敵の手がかかったものがいたのかわからないけれど、セキュリティレベル3のものを易々とはたとえ内部のものでも難しいわね。閲覧するには最低限、私達調査員のIDと、上の許可のパスワードがないと無理だから。内調内部の仕業であるのなら、単独犯は考えられないわ」

 ……なんだか難しいことを言われたが、内部的ではなく外部的だというのならば。

「朝霞さんのお食事会自体が、他の誰かも絡んで計画的だったと?」

「ええ。そう言わざるを得ないわ。そして店に居たのは、変装したり、肉や野菜になにかを振りかける知恵がある輩達」

「うぉ~、俺食わなくてよかった~」

「私が持ってきた時点でそんな心配はないわ」

「……くっ、やっぱり食べればよかった。松坂牛~」

 棗くんは裕貴くんの肩をポンポンと叩いた。
 
「だけど階段や地上には黒服と黒いボックスカーが来たわね。店に入り協力しようとはしていない。応援で黒服が来たようには思えないのよね」

「つまり朝霞がどちらかに流したのかはわからねぇけど、もう一方も独自に情報が漏れているということか」

「そうね、スパイがいる。朝霞さんの方か、私達の方かに」

「ちょっと待ってよ、棗くん。だったらあたし達の仲間にスパイがいるということ!?」

「理屈上ではそうなるわね。可能性はゼロではない」
 
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