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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「ありえないよ。皆身体を張ってくれたあたしの大好きなひと達ばかりだよ!?」
「それでも擬態する能力が高かったら?」
棗くんの茶色い瞳は温度を無くしている。
「あのさぁ、あんた。仲間割れ画策している時点で、あんたも怪しいわよね。早瀬さんと柚の同級生だったかもしれないけれど、実はフリをして柚を追う内調やらのスパイかもしれないじゃない。内調ぐるみで銃を用意出来た。つまり拉致ようとしている勢力のひとつに内調さんもいるかもしれないわ。あんたをスパイにして!」
女帝が、人差し指を棗くんに突きつけた。
「どうして銃を扱える音楽家は疑わないのかしら」
棗くんは艶然と微笑む。
「そこにいる高校生だって、まるで昔からの仲間のようにしているけれど、横浜で上原サンと須王と会ったのが、実は計画的だったとは疑わないの?」
「ちょっと、棗くん……っ」
「あなたも、オリンピアを助けた音楽協会にいる男を父親に持つ。そして父親も弟も須王を根に持っている。あなただけが須王の味方という確証はない。今まで虐めていた上原サンに、優しくした・されたから友達だなんて本気で言えるのなら、お笑いよ。そんな生温い関係を友情とするのなら、それを味方だという理由にしないで」
「なっ、言わせておけば……」
「いい? 上原サンも。自分が好感を持てるからとか、命をかけてくれたからという主観的な理由が味方の証拠にはならない。むしろ本当に悪意を持って近づく奴らは、好意を見せるわ。そして正義を振りかざして、刷り込むの。自分は裏切らない、味方なのだと」
「私のことを馬鹿にしてるの!?」
「姐さん、棗姉さんストップ!! 熱くならないでって!」
「そうよ、落ち着いて、棗くん! 奈緒さん!」
しかし激高する奈緒さんと、冷ややかな棗くんの応酬は止まらない。