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エリュシオンでささやいて
第8章 Staying Voice
「ちょっとあいつを見てくる。柚、裕貴。悪いが三芳見ててくれ」
「わかった」
あたしと裕貴くんは同時に返事をして、暗い表情をしている女帝をソファに座らせた。
「たとえばの話でも、ちょっと言い過ぎだったよな、棗姉さん。だから姐さんに非があったわけじゃないこと皆わかっているから」
「そうよ奈緒さん。元気を……」
「……よね」
女帝がぼそっと言った物が聞き取れず、あたしと裕貴くんは顔を見合わせて女帝の口元に耳をそばだてる。
「言った通りだなって。私、どこにも味方だといえるものがない。元ヤンの私は柚を虐めていた……ただの受付嬢だし、父親と弟はああだし。ここで柚が友達だと言って貰えて、非常に恵まれているんだなって」
「ええと……姐さん?」
「改めて思うとそうよね。あいつ間違ったことは言っていないわ。私は十分スパイの要素あるもの。それを信じて貰えているのが友情だけという、これまた不確かなものだけしかないことに気づいた」
「な、奈緒さん、そこまで考えなくても……」
「確かに記憶を変えられてしまったら元も子もないわよね。だったらさ、なにか合図みたいの決めない? 自分は正気だよということを示すもの。ねぇねぇ、そうしようよ。裕貴だっていつどうなるかわからないじゃん!」
……転んでもポジティブに起き上がる女帝。
その逞しさにくすりと笑い、あたしも見習いたいなと思いながら、棗くんの冷ややかな表情が気になった。
今日の彼はちょっとキツい言い方と表情をしたのは確かだ。
あたし、ちょっと色惚けしてしまったのかもしれない。
だったら、ちゅんと反省して謝らなきゃ。
「柚?」
「ちょっとあたしも棗くんの様子見て来る。らしくなかったというか……」
「私は根に思ってないし、ありがとうと言っておいて。土下座で謝るんだったら許してあげるって」
「姐さん、根に思ってるんじゃん!」
「あははははは!!」
あたしは音がしたと思われる部屋に向かって歩いた。