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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
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それから数時間後、まだ化粧をしても絶不調のように思える棗くんにストップをかけて、報告会をお開きにしたのは、須王だった。
「今日は寝てろ。いいから」
棗くんの肩を抱いて、再び仮眠室に須王は連れた。
過保護なまでに棗くんを気遣う須王を見て、女帝がひと言。
「早瀬さんと棗、いい感じ」
女帝の中で、年下の棗くんは呼び捨ての対象となったらしいが、あたしと棗くんと須王は同い年だ。
「早くも柚にライバル出現?」
裕貴くんが揶揄するような目をあたしに向けて、くふりと笑う。
「須王と棗くんは大親友なのよ。邪推したら駄目でしょ」
「でもさ、世にはいるじゃないか、男同士という趣味なのが。しかも棗姉さん美人だし。須王さんは超絶イケメンだけど、棗姉さんの美女っぷりも中々のもんだよね?」
「……それはわかってるけどさ、あたしブスだというくらい」
二十六歳同級生トリオ。
あたしひとりだけみそっかす。
「なんでそっち? 柚はブスじゃないよ。棗姉さんや姐さんとは系統が違う美女」
「そうそう、作った美しさじゃない……って何言わすんだゴラァ!」
「言ってないよ、姐さん昔に戻ってるよ、昔に」
女帝は慌てて顔を作った。
「須王さんが王子様なら柚はお姫様で違和感ないんだけれど、棗姉さんはお姫様にはならないなって。魔女だね」
「魔女……」
「うん。棗姉さん、なんで女装しているの? 男装でもいけると思うんだよね、俺。顔はとっても整っているんだから、須王さんほどではなくてもさ、結構なイケメンになると思うんだ」
「確かに、女にこだわらなくてもいい気がするけれど、お仕事柄役立つのかなあ」
棗くんが女装しているところに、棗くん自身が、いまだ組織から逃れられないと訴えているような気がしてしまう。
「棗の男装、見てみたいかも」
「出た! 姐さんの肉食! 姐さんその舌なめずりはやめろって。そういうのが男遠ざけるから!」
「えええ……」
「ぶーたれないの!」
裕貴くんと女帝の会話は、どちらが年上かわからない。
……棗くんの男装か。
高校時代に男装していたのだから、おかしくはないはず。
なんで男装から、また女装に戻したのかしら。