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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
やがて須王が戻ってくる。
「今夜はここに泊まろう。明日は会社に学校だ。お前達寝ろよ?」
「須王さんは?」
「俺は寝なくても平気だ。明日だが、裕貴は棗に学校に送り迎えして貰え」
「棗姉さん大丈夫? 俺ならひとりで……」
「だから今日は休ませる。こき使いすぎていたのもあるからな。裕貴、しばらくひとりで行動するな。今度出てくるのは黒服じゃねぇかもしれねぇから」
「ど、どういうこと?」
「拉致を失敗している連中とは違い、実戦慣れした輩という意味だ」
「実戦って、今でも十分実戦じゃないか!」
「ああ。だからそうした危険回避には棗が不可欠だ。俺の家も狙われた。かなり計画的に人員を配置している。俺の場合は、マンションに二週間前からいたコンシェルジュがそうで、それを人身御供にして爆発と遠隔狙撃だ」
「な、なにから言っていいのかわからないけど……、須王さんのマンションって、コンシェルジュがいるの!?」
「そこかよ!!」
「だって俺の家に比べたらめちゃくちゃ近代的じゃないか。俺の古い家にカタカナは縁遠いよ。絶対そういうところには、プールとか温泉とかあったりするんだよ。ここの病室に来るまでのような厳重セキュリティとか」
鋭い指摘に、あたしと須王は顔を見合わせた。
「え、マジでそうなの!?」
冗談だったらしい裕貴くんは、呆然としてよろけた。
須王はゴホンと咳払いをして続けた。
「まあそんなところで、棗と行動しろ」
「わかったけど、そうしたらここがら空きになっちゃうよね。コンシェルジュに化けているのなら医者やナースにだって化けられるだろう!? クマのおっさんが狙われたら……」
「私、有給で休みましょうか? 小林さんだって段々とよくなるんだし、今が心配です」
女帝が手を上げて言った。