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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「ちょ、な……ぅぅんっ」
あまりに性急で荒い口づけは、本能的にあたしの身も心も須王に食らい尽くされてしまいそうな怯えを感じながらも、そうさせているのがただの欲情ではないことを身体で感じ取ったあたしは、彼の両頬に手を添えて、自分から舌を絡めてみた。
大丈夫だから、あたしはいなくならない。
だからゆっくりと落ち着いて。
……それが通じたのか、彼から力がなくなり、項垂れるようにして須王の頭があたしの右肩に埋まった。
「悪ぃ」
肩が熱い。
「須王も昔のこと思い出して辛くなった?」
「………」
「無理とは言わないけど、言って楽になることもあるから」
「……棗さ」
いやいや、あなたの話だったんですが。
「元々はあんなに酷い発作ではなかったんだ。まあ昔を思い出したりすれば、不定期に突然ぶっ倒れたり痙攣を起こすことはあったけれど。ああやってひとに噛みついたり攻撃的な要素が付加した最初の時が、九年前だった」
須王の右手があたしの首の後ろ側に巻き付く。
「そしてそれはよくなって、次に攻撃的になったのは……二年前からなんだ」
「うん?」
「俺がエリュシオンでお前と会った時に再発した」
須王はなにを言おうとしているんだろう。
その声調は、苦しげなもので。
「しかもお前を抱き始めた三ヶ月後にあいつ、海外に行っている」
須王はぎゅっとあたしを抱きしめた。
「須王……?」
「……俺、ただ……棗に、自慢したかったんだ。あいつにだけは、俺……、お前が好きだと、俺の心を正直に話していたから。だから、本当に……気が遠くなるくらいの長い間、夢にまで出た好きでたまらねぇ女と心が通じたのが嬉しくて、ガキみてぇに浮かれまくって。……あいつに見せたかったんだ。俺が、どんなに嬉しいのか」
「……っ」
「あいつにだけは、見て貰いたかったんだ。あいつは俺を励まし続けてくれたから。俺がお前を手に入れられてどんな気持ちなのか、あいつはわかってくれるから。あいつには正直に伝えたかったから。だから俺……」
あたしは須王の背中を撫でた。