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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 

「だけどもしかしたら、俺は調子に乗りすぎて、あいつに酷な仕打ちをしていたかもしれねぇ。今も昔も……」

「酷?」

「ああ。あいつは簡単には本音を顔に出さねぇんだ。だけど、さっきのあいつの目……弱っていたから特に顕著で、隠しきれてなかった」

「なにが見えたの?」

 ふと、この部屋に連れられる直前、須王が棗くんをじっと見つめていたことを思い出した。
 
 まさか、あれのこと?
 でもあのあと須王は、結構いつものように棗くんとポンポンと会話していたような。

 あたしが棗くんに妬くとか、須王が女帝に妬くとか。

 あそこに、どんな違和感があったというのだろう?

「お前、なにも感じねぇ?」

 あたしの背中に彼の指が立てられた。

「なにを?」

「お前に対する、棗の気持ち」

 須王の声は悲壮さに震えていた。

「好意は貰えていると思うけど」

「……それ以上は?」

 あたしは訝しげに眉根を寄せた。

「……ちょっと待って。棗くんを変に邪推しないでよ」

 しかし同意の言葉が返ってこない。
 さすがにそれはないでしょう。

 好きか嫌いか聞かれたら、棗くんは好きだけれど、異性として意識したことなんてない。なによりあたしは須王が九年前から好きだったのだから。

 しかも棗くんと怪しい雰囲気になったり迫られたり、そんな空気になったことはないし、同い年でありながら妹みたいに扱われていると思う。

 しかも棗くんは、須王を理解してくれとあたしに言って、色々と須王のことを教えてくれたんだよ。告白しようとしているあたしの背中を押してくれてもいたんだから。

 その須王と仲がいいという友達と仲良くなったからと、どうしてそれがおかしな方向に曲がっていくのか。

 もしかして棗くんの顔を温かいタオルで拭いて、少しの時間傍にいたからそんなことを言い出したのだろうか。
 
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