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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「ちょっ、専務に向かってなにを!! お、お知り合いで?」
慌てて話題を変えると、専務は声をたてて笑っていた。
早瀬の返答のどこに笑える要素があったのかさっぱりわからないが、この専務は随分と笑い上戸らしい。
笑いすぎて涙が出ると、取り巻きがさっとハンカチを出して目を拭いてあげている。その鮮やかさに、内心舌を巻く。
「ああ。彼とは旧知の仲でね。……よろしく、上原さん」
「なんで、あたしの名前……」
専務の視線の先にあったのは、あたしが首から提げていた身分証。
「柚、っていうんだ?」
「は「――去れ」」
頷こうをしたあたしの前で、早瀬が口から出したのは、激怒の声だ。
「俺達に構うな!!」
シーンと静まりかえるほどの凄まじいその怒りに、専務だけが平然と両肩を竦めるようにして、笑った。
「〝俺達〟ね。まあいい。……いつまでも遊ばず、約束は守れ」
最後の言葉はなにか非情で。
早瀬の顔が忌々しく歪まれていくのをあたしは見た。
約束?
ふたりが一体どんな関係かわからぬまま、専務は取り巻き達を連れてそのまま出て行った。
「専務と、どんな……」
関係と約束かを尋ねようとしたら、ぶっきらぼうに言葉を被せられた。
「エリュシオンに戻ったら、出かける」
「……はあ。いってらっしゃい」
人ごとのように言うと、早瀬は怒る。
「お前もだよ!! 重要な役目を担っている自覚をしろよ!!」
「は、はいっ」
じゃあ、そう言えばいいじゃないかよ。
なんだか八つ当たりをされた気分だ。
……せっかくの隆くんの美味しいパスタなのに、あたしの大好きなジュレをいいだけ取られたし、なにかカッカしている早瀬が向かい側からどかないし、慌てて食べたら……パスタが味気がなくて残念だった。