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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
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13時、玄関前――。
またもや早瀬が、育成課にあたしと出かける旨を宣言したものだから、邪推する人達の陰口と視線を浴びる。
まあ確かに重大なプロジェクトの発案者ではあるけれど、こちらも通常業務があるのだから……と気遣える王様ではなく。
さらにさりげなく、あたしの腰に回ったこの手!!
手で素早く払ってみたが、まるで吸盤でもついているかのように、あたしの腰から離れない。
通常早瀬は、あたしと同じ上のフロアの窓際の一番良い席に、パーテーションに区切られた偉そうな自席を持っているのだが、とにかく忙しい奴なので、会議室にばかり籠もっていることが多い。
さらに作曲活動をするための別宅兼スタジオは、都内の青山に自分のものを持っており、もう会社に来なくてもいいんじゃないかと思うけれど、よほどの繁忙期でなければ真面目に会社にくる。
「さあ、許可を貰った。行こうか」
今度は肩に回された手。
「コートをとってきます」
変な噂をたてられる前にくるりと身体を回して、自席からコートとバッグを手にし、近寄るなオーラを出す。
早瀬は受付横の来客用のハンガーに自分のコートをかけていたらしく、それはそれは素晴らしく格好いい……王子様がマントを格好つをつけて羽織るような感じで、受付にいる女帝や美保ちゃんを魅惑した。
「じゃあこいつと出かけてくる。戻らないから」
「早瀬さ……ん、お電話がかかってきたら、早瀬さんのいつもの番号にお電話いたしますね」
女帝、プライベートナンバーの方に、連絡する仲なんだぞといわんばかりの顔つきで、あたしに勝ち誇る。
「ああ、そうしてくれ。いつものように、会社の携帯の方に」
「か、会社……」
ああ、女帝可哀想に。
今、早瀬によって、夢と希望が一気に壊されたね。
あたしもわかるよ、その気持ち。
ねぇ、最低でしょう、この男。
と、あたしが同情心を見せたにもかかわらず、逆にそれで気分を害したらしい女帝は、強気に出て早瀬に問うた。