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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「だけど俺が、よりによってこの俺が。あんなになるまで棗を苦しめさせていると思えば……」
「でも、あたしは須王しか愛さないよ。棗くんが可哀想だからと、棗くんを男として好きになりたいと思わない。それは憐憫、棗くんが欲しいものなのかな。棗くんの尊厳を傷つけるものだとは思わない?」
「……っ」
あたしは身体を離し、彼の前髪を掻き上げながら、ダークブルーの瞳を覗き込んで言った。
「もし仮に、百歩譲って棗くんがあたしを恋愛感情を持っていたとしても、結果は同じ。あたしは須王以外に奪われない」
断言したあたしの唇は、彼に奪われた。
動物的に唇に舌をねじ込ませて暴れさせる彼から、狂おしいほどの愛情を感じて、あたしは涙した。
あたしはこの愛情を愛したい。
唇が離れて、淫らな銀の糸がぷつりと切れた。
「俺で、いいの?」
「嫌だと言って許してくれるの?」
「許さねぇよ、そんなの!」
あたしはけらけら笑った。
「あたしは、九年もあたしを傷つけて、嫌がるあたしを性処理だと無理矢理抱いてきた憎い男が好きなの。嫉妬深くて独占欲が強くて、皆の前でもキスしてくる野獣みたいな男がとっても好きなの。こんな面倒臭い男を好きになるなんて、すごく物好きだと思うわ、自分でも」
「……結構、ぐさりとくるな」
須王は苦笑する。
「でもあなたの言葉を信じてしまったの。あなたの愛を感じてしまったの。あなたの音楽から心を受け取ったの。……あなたはあたしの傷を償って貰うためにあたしから離れられない。そしてあたしも借金のためにあなたから離れられない。だから不可抗力的に離れられないわ」
切なげなダークブルーの瞳が揺れている。
「しっかりしよう、須王。あなたがぶれると棗くんもぶれる。言ったでしょう、あたし。棗くんにそっぽ向かれたらプライベート用のスマホに渉さんしか機能しなくなるって」
「それは嫌だ」
即答だった。
どれだけ渉さん、嫌われているのか。