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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 

 気のせいだって。

 あたしを好きになる奇特な男は、須王くらいだって。
 あの音楽室での記憶があればこそだ。

 昨日そう言って、そうだなと彼は笑った。
 それでも彼は、皆の前……特に棗くんの前であたしに触れなくなった。

 前に戻ったのだ。

 あたしと彼の間には距離があり、この距離こそが須王と棗くんの誤解を解消するものと思うのに、触れられなくなれば寂しく思うもの。
 慣れとは恐ろしい。

 さらに彼は、あたしの名前よりも棗くんの名前を多く出して、ふたりしかわからない会話で笑い、そこに無邪気な裕貴くんが割り込んで、女帝もそこに顔を出す。

 なんだかわざとあたしを遠ざけられている気がしながらも、あたしが入ることで須王がもやもやしたらいけないと、あたしは小林さんと会話をしていた。

――嬢ちゃん、明日お揃いのなにかを作ったらどうだ?

 小林さん曰く、彼の奥さんがパワーストーンのお店を開いているらしく、それが病院から徒歩圏内の近いところにあるらしい。

――嫁が言うには、内緒にしてプレゼントするのがいいらしいぞ。

 住所を聞いて、いつ行こうかと車で須王に相談しようと思っても、彼は物憂げな顔をして、なにかを考え込んでいた。

 これが棗くんならさっと察知出来るのに、あたしは彼の言葉がなければ気づいてあげられないのがもどかしい。

 彼はなにを考えているんだろう。

 あたしになにか出来ることないかな。
 須王に元気を出して貰えるように。

 帰りに須王にパワーをあげられる、パワーストーンを買いに行こう。
 皆でお揃いでだけど個性に溢れたブレスレットを選ぶんだ。




 
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