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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 

 

 今日、エリュシオンで朝からすべきことは決まっている。
 そのために昨日、念入りに作戦会議をしたのだ。

 あたしは同じ育成課で確実に痩せてきた茂と、百本ノックをやり遂げた藤田くんと、ネットばかり見ている水岡さんを会議室に集合させて、一ヶ月に一介の育成課の定例会をする。

「あれ、今日は会議室なんですか?」

 水岡さんが不思議そうな顔で言う。

「ええ。ちょっと重要な案件があるので」

「そうですか」

 返事をしたのは藤田くん。
 げっそりしていた先週を思えば、若いだけに回復は早い。

「HADESプロジェクトもあるから早々に切り上げよう」

 そう言ったのは、体重が激減しているだろう茂。
 すごく顔色が悪い。

「わかりました。では私が議長を務めさせて頂きまして、議題に入らせて頂きます。まず、これを」

 あたしは昨日棗くんから貰った資料をコピーしたものを提示する。

「これは?」

「これは、あたしのパソコンに対する不正アクセスの記録です」

 三人は驚いた顔をして、あたしを見た。 

「書かれている通り、これは大体が時間外、渡部課長のパソコンからなされてます」

 それは、棗くんに頼んでいた不正アクセスの調査結果報告だった。
 昨日、棗くんが持ってきたのだ。

「私はしていないぞ!」

 慌てる茂の顔は真っ青だ。

「はい。課長は早く帰られましたが、その後アクセスされているんです」

「課長が戻ってきたということですか?」

 水岡さんが聞く。

「まさか俺達も疑われてます? 大体課長のパソコンを使うには、パスワードが必要じゃないですか。それもわからないのに、大体なんでチーフのパソコンを? なにか見られてはまずいものでもあるんですか?」

 心身共に回復した藤田くんは、いつもの強い語調で決めつけてくる。
 ティラミス効果は、彼の不調の回復と共になくなってしまったか。

 あたしは、努めて平静に言う。

「たとえば課長が消したふりをして帰れば、後でゆっくり課長のパソコンを使えるわよね? エリュシオンでは、皆ノート型パソコンは蓋を閉じて帰るし。ちょっとやそっとじゃ、電源ついているかどうかなんてわからないわ。二枚目が、早くに帰ったはずの課長のパソコンの電源が消されていなかった記録です」 
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