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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
須王からどの程度の確認をしたのか詳細は聞いていないものの、予定通りの展開に少々はったりを利かせてあたしは言った。
「ねぇ、あたしの整頓されたパソコンの中には、ダミーのファイルが入ってたのよ。今、その内容でオリンピアが公表したそうよ。……水岡さん?」
俯いていた彼女は、びくりと肩を震わせた。
「は!? チーフ、自分の部下を疑うんですか!? ひでぇな、そう思いませんか、早瀬さん」
「そうか? それにしてはほっとした顔をしているな、藤田」
「え?」
もうひとり、ひっかかった。
「お前の大学の先輩であるイベント課の牧田チーフに、今吐かせてきたぞ。同郷のそこの渡部課長に指示したって」
オリンピアが、組織を形成しているかもしれない音楽協会の意向で動いているのなら、茂を使えるクラスが必要ではないのかと、あたし達は昨日話し合った。
だとすれば役職つき。
そこで浮上したのが、HADESプロジェクトのメンバーでもあるチーフクラス、即ち女帝の取り巻きのひとりの独身のおばさまだ。
彼女だけが、茂と藤田くんと接点があった。
彼女はHADESプロジェクトの詳細はわかっているだろうが、核心の部分は須王と上役、あるいはあたしとしかしていないため、あたしのパソコンが狙われたとは思うが、だったらなぜ、遠隔ではなく直接あたしのパソコンを見なかったのだろうか、という推測については、
――上原サンのところ、ネット経由の電子日報でしょう? どうやらそれをまとめて見るのは、直属の上司さんのパソコンの方がいいみたいね。参照していたログがあったそうよ。
エリュシオンでは、社内メールと、一日にどんな仕事をしたのかとか詳細に書いて提出する日報というものをネットで管理していて、個人に割り当てられたアドレスにアクセスして日報を書いて、提出ボタンを押せば、直属の課長に自動送信され、却下された場合以外は、あたし達の元には送ったという記録以外、内容は履歴が残らない。