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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「さすがに課長は、パソコンを貸した代償がどれだけのものかおわかりになって、かなり痩せられたようですがね」
「うっ」
そうか。
茂がげっそりしたのは、罪の呵責からなのか。
もしかして、自分のが情報を漏らしたことになるかもしれないと。
茂、小心者だものね。
うんうん、それでわかりやすかったよ、茂はなにか関係してるって。
これはすべて棗くんの情報と、須王の組み立てた推理によるものだ。
そこにあたし達は口を挟む余地もなく、言われた通りの展開が目の前に繰り広げられている。
即ち、大したことを入れていなかったあたしのパソコンは、須王が連れ回してくれたおかげで、なにか入っているかもしれないと勘違いされて、二組のスパイから狙われていたらしい。
ただ、水岡さんはオリンピアに繋がっていても、牧田チーフがどこに繋がっているのかはわからないけれど。
とんだ勘違いではあるが、スパイが潜んでいたのは確かなこと。
そして現実問題、情報は漏洩されてしまったのだ。
須王は美人さんだから、どう見ても怒りに満ちた目で笑われると妙に怖くて、嵐の前の静けさのようにぶるぶると震えてしまう。
「言いてぇことは?」
言えないよね。
実はあたしが議長をしたのは、反省の言葉を促したかったからなのだけれど、この王様を目の前に、萎縮してなにも言えなくなっちゃうよね。
ほら、なにも言わないと王様キレちゃうよ?
この王様、音楽を冒涜するのは許さないひとだから。
あんなに盛っていたのに、なんでそこんところはストイックなんだろうね。
「お前ら、自分のしたことの重大さをわかっているのか!?」
彼が企画して彼が作ろうとした神聖なる音楽を、不当な方法で朝霞さんに奪われた。
会社に二組もスパイがいて、それが自社の情報を流すなんて本来あってはいけないことなんだ。
三人にはもしかすると、そうしなければならなかった事情があったのかもしれないが、よりによってあたしがいる育成課全員の悪行に、須王の怒りは静まることなく。
きっと銃でも持たせたら乱射でもしそう。
それとも棗くんのように、噛みつくか。
「なんとか言え!」
聞いているあたしも、酷く居たたまれない心地になって縮こまって聞いていた。