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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「あの……打ち合わせの時とかであったら困るので、LINEのID教えて頂けますか?」
あたしを見ないでよ!
別にあたし早瀬と連絡取り合いたいとか、羨ましいなんて、これっぽちも思ってないし!
「ああ、気遣って貰ってすまないな。だったらエリュシオンのhayaseのメルアドに送っておいてくれ。LINEIDは非公開だ」
女帝の思惑をあえて外したのか無意識なのか、早瀬は軽くそう言うと、あたしの腕を掴んで(恐らく、距離を開けて後ろを歩かせないように)、女帝に背を向け歩き出した。
「……LINEと言えば上原。お前、いい加減申請許可しろよ」
ああ、見ずともわかる――。
早瀬のことなら、どんな小声の呟きも聞き漏らさない聡い耳をしている女帝が今、極悪般若の面を被ったね。
〝お前、早瀬様からのIDをなに却下してやがるんだ!!〟
そんな怒りのオーラに背中が焦されそうになり、慌ててエリュシオンから出て、早瀬にきっぱりと言う。
「御用があるのなら、エリュシオンのueharaにメール下さい」
「お前メールなら、ひと言じゃねぇか。……しかも、すぐじゃねぇし、一度きりだし」
「だってどうでもいい……失礼。〝今夜は月が綺麗だ〟と突然言われたって、はぁとしか返答のしようがないでしょうが。LINEだって結果は同じですよ!」
LINEになにを期待しているのかわからないが、LINEをしたいなら女帝と思う存分どうぞと言うと、早瀬はむくれた。
「ホントお前、男心をわかってねぇよな。男心というより俺というか……」
エスカレーターで下りながら、早瀬は前髪を掻き上げて言う。
「……俺、女とみたら見境なく声をかけて、即答を求める男じゃねぇんだわ。誰が〝今夜は月が綺麗だ〟なんて、わざわざ手間をかけるかよ。特に、どうでもいい女は勘違いさせたくねぇんだけど?」
おや、早瀬に分別があったんだ?
あたしてっきり、据え膳かと思ってたのに。
「ではどうでもよくない女とLINEしたい時に、即答求めて下さい。恐らくあなたがひと言書くだけで、たくさんのハートマークつきで長く書いてくれますから。ひとりの寂しさも埋めてくれますよ」
本当に、寂しいっ子は面倒だ。