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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「……っ」
こちら側の担当者は、営業の谷下くんと牧田チーフだ。
だけどこちら側だけではなく、もしかしたら広告代理店側にもスパイがいたのかもしれない。勝手に仕事を推し進められる立場にいる――。
うわ、つまり誰も信用出来ないということ?
なんでHADESプロジェクトがそこまで狙われているの?
「ねぇ、牧田チーフは?」
「はい、今日は風邪でお熱が出たって、ガラガラの声で電話がかかってきました」
つまりいないということは、須王は牧田チーフが藤田くんと茂に指示したのかわからないまま、完全にはったりを通したということね。
「それは篠塚さんが直接話したの?」
「はい。まるで男性のような低い声で、あれなら可哀想でした」
「……っ」
本当に牧田チーフだったのだろうか。
男のような声ではなく、本当に男の声だったら?
とにかくは、内部の情報は簡単に外部に漏れ、勝手に指示がなされている。
それはきっと育成課と牧田チーフだけの協力者の暗躍ではないはずだ。
その時会議室から、須王が思いきり不機嫌そうに頭をガシガシ掻いて、耳をその手で掴むような仕草をして出てきた。よほど頭にきていたのか、顔が赤い。
あたしは須王に、資料庫に来るように促した。
資料庫に誰もいないことを確認して、棗くんから貸して貰った……盗聴器の探索機のスイッチを押したが、棗くんが言う高い音はせず、低いブーンという音だけが響き、あたりに盗聴器はないことを確認した。
「どうした?」
「今日、牧田さんお休みだって。男みたいな声で、風邪で熱出したからって電話がかかってきたみたい」
ダークブルーの瞳が鋭利な光を放つ。
「男みてぇな声?」
「ええ。本人かどうかはわからないわ」
「牧田のところに行くぞ」
「え、仕事……っ」
「育成課の連中には辞表を書くかマスコミに知らせるかどちらかを選べと言ってある。仕事になんねぇだろう。それにHADESプロジェクトもそうだ。やはり壊す」
「………」
「今のままではすべて筒抜けだ。誰も信用出来ねぇよ。今村さんまでもが疑わしく思っちまう。俺がメンバーを選び直す」