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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 
 
「でも、エリュシオンの事業なら……」

「社長との取り決めで、俺をエリュシオンが引き留める条件のひとつに、俺がすべての企画の人事権があることを認めさせた。これを使う。もし反対されたら独立してやる」

「……っ」

 須王の目は、完全に怒りに満ちたものだった。

「HADESプロジェクトはお前と三芳だけを入れる。本当はお前だけでいいけど、そうしたらお前が負担がかかりすぎる。それに三芳とふたりがいいだろう?」

「それは……」

「すげぇきつくなるぞ。二十人の仕事を三人で分けるんだ。この状況の中で、お前も営業に回るんだ」

 この状況。つまり銃で狙われている状況という意味だろう。

「それでも俺は、お前をひとりにしねぇし、なにがあってもお前を守る。どちらもミスはしねぇよ」

 須王の眼差しは痛いくらいに真剣で。

「お前だから信用出来る。お前が三芳を信じているから信用する」

「女帝、今でも信用出来ないの?」

「棗を信用させられたら、俺も信じる」

 あたしは笑ってしまった。

「あたしと女帝を使ってくれてありがとう。営業だろうとなんでもする」

「柚……」

「嫌なの。あなたが作ろうとしている音楽を、こうして少しずつ奪われていくのが。だったらあたしも、一度作ったものを壊して、また考えた方がいいなって思った」

「………」

「裕貴くんと小林さんと棗くんを入れて、あたしもボーカル見つけて。それで広告とかプロモーション活動も頑張る。これでもあたし通算六年、この道に携わってきたんだもの。能力はなくても、経験値は負けない」

「ん」

「ただ……」

「ただ?」

「……ん、なんでもない」
 
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