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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
  

 須王は目を細めながら手を伸ばし、ドアノブを静かに回す。
 カチャリ、と音がしてドアが薄く開いた。

「入るぞ」

「チャイム鳴らさないで入って、不法侵入とかになったりは……」

「緊急性があったで乗り切る。……会社には銃は持って来てねぇから、なにかあってもこの身でお前を守る。俺の後ろに着いてこいよ」

「わかった」

 一応は、玄関で靴を脱ぐ。

 廊下を軋んだ音をたてて進むと、やはりドシンドシンと重いものが跳ねる音が、奥の部屋から聞こえてくる。

 そして呻いているような声と、なにかのピアノ音楽も同時に耳に届く。
 テレビだろうか。

 本当に風邪で熱を出して、苦しんでいてじたばたしている可能性もある。あたしはすぐに救急車が呼べるように、スマホを手にした。

 そして奥の、六畳のリビング(と思われる部屋)に居たのは――。

「柚、見るな!」

 暗くなった視界に、焼き付いた残像が浮かび上がる。

 四つん這いの太い裸体。

 そこには、鼻に大きなフックと口に黄色い玉のようなものを入れられた牧田チーフが、フーフーと声を漏らしながら、四肢を鎖で繋がれていた。

 突き出した尻の間に突き刺されたのは、把手のついたドリルのようなもの。ヴォォンと音をたてて貫かれながら、唯一動く頭だけを畳の床に打ち付けていた姿だった。

 しかも打ち付けていた頭からだけではなく、痛々しい股間からも血が流れていた気がする。

「な、なななななに、あれ」

 声がするということは生きてはいるんだろう。
 だけど、なぜあんな姿に!?

「朝霞と来た爆弾バイブ女にしたのと意味は同じだろうな、これは脅しだ」

「な、なにか突き刺さっているのは……」

「なんだ見たのか。恐らくはドリルバイブだろう。どこかを傷つけたな、血を出している」

 そんなおぞましい名前のものが存在するのも知らなかったあたしは、ただ震えながら悲鳴を上げて、須王の服をぎゅっと掴んだ。
 
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