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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 
 
「きゅ、救急車……」

「その前に、抜いてやる」

 須王はあたしをその場に置いて、深く突き刺されていた……ドリルバイブと呼ばれる、どう見ても電動工具にしか見えない凶器を引き抜いた。

 先が赤くてくらりと貧血になりそうになる。

 気持ちよくなれる玩具とは到底思えなかったが、ふがっというような音をたてながら、牧田チーフは畳に崩れた。

 須王は豚の鼻のような形相にさせていた鼻フックを外し、ボールみたいなものを口に埋め込んでいたベルトを頭から外した。すると牧田チーフは咳き込んで、口の中にあるものを吐き出した。

 それは――。

「柘榴……」

 そう呟いた須王が、小さく流れていた音楽の発信源……テーブルに置かれてあった小さなスピーカーを止め、拳を震わせた。

 ただ――。

「偸盗(ちゅうとう)……盗むなという、組織の音楽だ。……皮肉ったか」

 その曲は、あたしには聞き覚えがあるもので。

「くっそ……。組織の掟を思い出させるなんて、昔の関係者が今の組織になにか関係しているのかよ」

 それは――棗くんが口ずさんでいたものだ。

 牧田チーフは、須王のHADESプロジェクトを盗んだ。
 だとすれば、棗くんはなんでこの音楽を口ずさんでいたの?

 そして……、天使が唄った歌が怒りに関係することだというのなら、天使はなにに対して怒りを見せていたのか。

 十ある音楽からそれを選んだところに意味はないのか、どうしてもあたしは邪推してしまうのだった。



 
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