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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
やれやれと駄々っ子をあやすような気分でいたのに、詰るような眼差しを僅かに揺らして、前に立つ早瀬があたしを見上げるようにして言う。
「だからお前に言ってるだろうが」
「あたしに言ったって仕方がないでしょう?」
「俺、お前以外にそんなこと言わねぇぞ?」
「だから、あたしに言われても……」
じとりとした目が向けられた。
ダークブルーの瞳はなにやら陰鬱そうだ。
「………」
「……なんですか?」
「……もういい。よくはねぇけど、LINEはいい。ちっくしょ……」
早瀬は盛大なため息をついた。
玄関から出るかと思いきや、早瀬はあたしを連れて隣にある立体駐車場に来た。
「色々見て回るから、俺の車に乗れ」
「あたし体力には自信があるので……」
「乗れ。乗らねぇと、今夜もホテル直行だ」
「……っ!!」
極力早瀬と一緒の空間に居たくないのに、さらにはその空間の支配権が早瀬にあるなんていう危険な目に、どうしてあわないといけないの。
「返事!!」
「……はい……」
……やっぱりあたし、自虐的なのかしら。
早瀬の車は今まで見たことがなかったけれど、きっとポルシェとかフェラーリとか、ベンツとか、そういうものだろう。
そう思っていたけれど、出てきたのはあたしの知らない……葉っぱのようなものが下で繋がったV字型エンブレムをした、車体の低い黒い車だった。
二人乗りスポーツカータイプで、左ハンドル。
滑らかな曲線が上品なフロント、タイヤのホイールが赤い。
ドアが開けられず、中から早瀬がドアを開いてくれた。
車内は黒と赤のコントラストで男らしい。
「なに突っ立ってる。乗れ」
ぎこちなく、靴の裏の泥を持ち込んだらどうしようと緊張しながら助手席に座る。
彼はシフトレバーがある中央の赤い革張りのところを開けると、中の小物入れになっているようなところから、ダークブルーの眼鏡ケースを取り出した。