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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
『わかったわ、久我稔を調べておくわね。でも上原サンの方が、久我親からなにか聞いていたりしないのかしら』
久我親とは、前エリュシオン社長のことだろう。
あたしは須王と棗くんの電話だということを忘れて、普通に考えて答えてしまった。
「うーん、聞いたのは、子供に手を焼いているってことかなあ」
『あら、上原サン。スピーカーにしてたのね、朝ぶり~』
「あ、棗くん朝ぶり~」
本当に棗くんのこのノリ、女友達なんだろうなって思うの。
全く須王ってば、なんで邪推しちゃったのか。
「前社長は、エリュシオンを息子ではなくて社員に引き継がせようとしていたから、息子を警戒していたフシはあるわ。こっちが聞かない限り前社長も一人息子のことを口にしなかったし、あたし達社員も、まさか社長の話だけにしか出てこなかった息子が突然しゃしゃり出て、エリュシオンを乗っ取っちゃうなんて思っていなかった」
『想定外だったのね、久我稔の後継は。だったら彼が、なぜ父親のエリュシオンが必要だったのか、ってところに焦点が当たると思うんだけれど。エリュシオン、なにか特殊なことをしていたの?』
「普通の会社だったけどなぁ。エリュシオンはぎりぎりの経営状態で、朝霞さんが中心となってなんとかしなきゃって皆で頑張っていたの。本当、朝霞さんが次の社長になるって誰もが疑ってなかったし、実際社長も朝霞さんを凄く可愛がって色々なところ回って、自分の代理をさせていたし。だから現社長が、稼ぎ頭の朝霞さんがいなくても欲しいと思うだけのエリュシオンの魅力は、ないと思うのよ。朝霞さんがブレーンだったし」
『まあ新エリュシオンでは、朝霞さんの代わりに、須王がブレーンとなって稼ぎまくっているんでしょうけど』
「朝霞の代わりっていうのも嫌だな」
須王が、苦虫をかみつぶしたような顔でぼやく。