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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「大体ね、今のOSHIZUKIビルディングになんで移る必要があったのか、よくわからない。現社長の一存だったから。まだ都心に近いとかならわかるけど、木場……しかも忍月財閥のビルになぜ入らないといけなかったのか」
「それは……」
上擦った声を出した須王が言葉を切り、そして棗くんに言う。
「棗。あいつにその線を聞け」
『まぁ、不正アクセス分析頼んだばかりなのに?』
「結局自分のところでは、片手間で作ったものの解読も出来ねぇから、お前のところに返したんだろうが。だったら作った奴にやらせればいいのに、それも出来ねぇなんて情けねぇ限りだ。本当にあいつも、作ったら作りっぱなしで無責任で、なに威張ってやがんのか……」
あれ、そういえば香月課長が作ったシステムを解析してどんな不正アクセスだったのかと結果を出したのは、棗くん関連だと思ってしまったけれど、そういえば最初に頼んでいたのは――。
「あいつって、渉さんのこと? だったら……、作った〝あいつ〟って香月課長のこと?」
『わおっ、須王そこまで話したの?』
「話してねぇよ!」
「なんの話?」
「ああ、こっちの話……棗、大笑いするんじゃねぇよ!!」
……渉さんとシュウさんが身内というのは教えて貰ったけれど、棗くんが知っていて、あたしが知らない須王の話「その1」か。
だけどどうして香月課長をどうしてそこまで毛嫌いするんだろう。
いまいち須王の環境がよくわからない。
わかるのは、須王が心から信頼出来る存在は、棗くんひとりだということぐらいで。
『OK。渉さんに聞いてみるわ。なにか久我稔に打診したかって』
「ああ」
『だけどあんた、電話に出て上げなさいよ。居留守使われるって、凄く嘆いていたわよ、渉さん。私、電話に出させますね~なんて毎回言ってるのよ、それなのに頼み事なんて、決まり悪いったら』
……ああ、須王のマンションでも電話かかって来たのに出なかったし。
「あいつと話すことはねぇんだ。話したい奴が話してればいい」
『別に私も、お喋りしたいわけでもないんだけど……』
「お前はあいつのタイプだ。だから懐刀、行け」