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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 

『あのひと一発で私が男だって見抜くくらいの眼力があるんだから、私は除外よ。口説かれもしたことないし。それにあのひとの恋人は、私と全然違う素朴な感じで、ちょっと驚くタイプよ』

「そりゃあ、あんなに派手に女に取り囲まれて食い散らかしてきたのなら、食傷気味にもなるだろう。男ならたまには、今までにねぇもんを食いたくもなるさ」

『でも存在隠したりと、結構本気っぽいわよ?』

「あのなあ。毎日こってりとした中華食ってれば、そばを食いたくもなる。だけどそばだけで生きられる奴じゃねぇだろ。色々なのを食えば食うほど慣れちまうんだから、毎日そばなんていずれ飽きる……」

 じぃぃぃっと見つめていたあたしに、ようやく須王が気づいたようだ。

 そしてあたしは、「美食家」と須王を指さし、「そば」とあたし自身を指を指す。

「そうか、須王もいずれ飽きちゃうね。だったら飽きられないように、そばは立ち去るのみ」

 信号で停まっていたから、シートベルトを外して、ロックを外し外に出ようといると、須王が慌ててあたしの腕を掴む。

「これは奴の話だっ!」

「そう? 男ならたまに今までにないものを食べたくなるんでしょう? 今までにないのがあたしなのか、違う女なのかわからないけど」

「だから、俺はお前だけだって言ってるだろうが!」

「でもたくさん、美味しく食べたんでしょう?」

「それは……」

『そうよー、須王も色々食べて食傷気味ー!!』

「棗、お前!!」

「だったらそばは消えた方がいいよね」

「俺、そばが好きなんだよ!! な、棗!」

『えー、そんな話初めて聞いた。あんた肉ばっかりじゃない』

「棗ーっ!!」
 
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