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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 
 
『ぶはははは。上原サン、須王テンパってるから、事故を起こす前にそこらへんにしといてくれる?』

「え~、棗くん。せっかくあたしが優位にたてるチャンスなのよ?」

『でもね、病室に三人のベッドが並ぶのは絵的にも笑っちゃうから』

「そうか、笑われるのは嫌だわ」

『ふふふ』

「ふふふふふ」



「お前ら!!!!」


 須王の絶叫のような声にふたりで大爆笑。
 やっぱりこういう関係ってあたし好きだ。

 王様をやりこめるには、女王様がいなくちゃ。
 王様と女王様はずっと仲良くしていて欲しいな。

『おっと、元ヤンが呼んでる。じゃあね、須王。上原サン、お仕置き頑張ってね』

「え……」

 女王様は爆弾をあたしの手の中に放って、突然に消えてしまう。
 嵐のように。

「さぁて、棗公認のお仕置き、どこにするかな……」

 当然、あたしの身体から血の気が引いてしまう。

「え、待って。なにそれ!」

「お前、お仕置きが好きなんだろう?」

 ゆったりと肉食獣が獲物を狙うようにして笑う。

「待ってよ、ちょっと……ちょっと棗くんと遊んだだけじゃない」

「へぇ、俺の知らない間に、随分と仲良しだな。お前、高校時代の棗、思い出せたわけ? なに、俺もういらないって?」

 目が、笑っていない!!

「いらないなんて言ってないから! 棗くんのこと、思い出してはいないけど、別に過去があろうとなかろうと関係ないでしょ!!」

「それ、十二年お前に片想いしていた俺に言う?」

「い、いや、その……」

「冗談だよ、そんなに困るなって」

 須王は左手でハンドルを取りながら、右手であたしの頬を指で突いて甘やかに笑うと、その手であたしの手を握る。
 
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