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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「あ、アンケートですか!? うわあ、こんなにありがと「あのね、隆くん。隆くんの姿を見たっていうひとがいるの」」
「見た?」
隆くんは目をぱちくりさせた。
「待ち合わせ前に、守衛さんになにかを渡して出て行ったと」
「俺が帰ったの、十九時でしたけれど、その時まで柚さんいらっしゃったんですか? 伝言はティラミスを持っていって一時間後くらいでしたから、俺、食中毒でも起こしていると心配して……」
「待って。それ本当なの?」
「はい。だけど金曜日はおばさんも早く帰ってしまったから、誰も俺がここでアイデアを練っていたことは知らないでしょうが」
「あたし、おばちゃんに行けなくなったと、先に言いに来てたの。そうしたらおばさんは、隆くんは外におつかいに出かけていて直帰になるからって。スマホ忘れていったから、家に戻るまで連絡出来ないって」
隆くんの眉根が寄せられた。
「金曜は、確かにちょっと出かけたことはありましたが、すぐ俺ここに戻ってきましたよ。大体、出かけている俺が、どうして待ち合わせ前にここの玄関を出て行けるというんですか」
「いや、だから……」
これは一体どういう状況?
隆くんは嘘をついているの?
あたしは女帝を疑いたくない。
こんなに邪気のない顔で不思議そうにしている彼が、画策したの?
「あたし、コンビニに来てって隆くんと思われるひとからメモを預かったと守衛さんに言われたの。隆くん知らないの?」
「知りませんよ。ここに戻ってきて、なんでわざわざ木場駅まで行かないといけないんですか。ということは、柚さんは腹痛ではなかったんですか?」
「ええ。元気に美味しく頂きました」
「だったら、あの華やかな美人……三芳さんはなんでそんな嘘をつきにここまで来たんですか?」
確かにティラミスを食べていた時は、あたしは二階の社員達と一緒にいて、女帝とは食べていないから、一階の受付にいた女帝がいつ出かけて戻って来たのかなんて知らない。
だけど――。