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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
 


「眼鏡……」

「ああ。運転と作曲する時は眼鏡をつける。元々視力は良い方ではなくてな」

 甘い顔が、小さく細めの黒縁眼鏡にクールに引き締まって見え、どこまでも理知的で紳士的な大人の男になる。

 背広姿のイケメンに眼鏡って、無敵だ。

 やばい。
 ベリームスクの匂いまで車内に漂い始めたよ。
 

 車が走り出した。
 衝撃が少なく音も静かな車内。


 ハンドルを切る早瀬の、クールな男の醸すフェロモンに息苦しくて。

 色香だけをだして平然としている王様が自ら運転してくれるこの状況で、ふと、昨夜の喘ぐ早瀬の声を思い出し、頬をパンパンと叩く。

 意識するな、意識するな。

「どうした?」

 尋ねる声まで、情事のような甘さが漂って、あたしの脳みそが蕩けそう。

「こ、このお車は、国産ではないですよね?」

「これはアメ車だ、シボレーのコルベット。通勤用の車で悪かったな。もっと派手なフェラーリとかの方がよかったか?」

「いえいえ、あんな高級車に乗ったら生きた心地がしません」

 すると早瀬は笑い出した。

「この車、俺がお前に貸した金以上だぞ」

 一千万円以上!!


「ひぇぇぇぇっ!!」

 
 そんな高級車が通勤用って、エリュシオンのハデスは金持ちすぎる!
 
 
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