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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
このビルで六階はよくわからなかったりする。
会社の看板も出ていないけれど、六階の案内地図には空き部屋というには大きすぎる空間があり、おそらく会社が入って居るだろうとしか思えない、不思議な階。
この階の奥まったところに、自販機とテーブルと椅子が置かれた休憩室があり、ここは穴場であることをシークレットムーンに居た千絵ちゃんから教えて貰った。
丸テーブルにあたしを挟んで両側に座っているのが、威圧感あるイケメン。
ここにシークレットムーンの香月課長や結城課長が入れば、ここは六階でも食堂のようにパラダイス。
……とは言えないあたしは、不機嫌極まりない顔で腕を組んで足を組んでいる須王をひやひやしながら見ている。
「まさかこうあっさりと、須王が釣れるとはな」
専務は、堪えきれないようにして笑い出した。
あなたがお願いしたんでしょうと思いつつ、中々に笑い声が途切れない彼はかなりの笑い上戸らしく、それまでの鋭い目つきが緩和されるから、空気が和やかになる。
「さすがだな、モグ。あさっての方向の土を掘っていたのに、いつの間にか、あの須王を尻に敷いたか」
……モグとはあたしのことらしい。
あたしのフルネームを見たくせに、あたしはモグか。
まあいいけどね、モグモグ可愛いし、専務は須王の身内なんだから気安く呼んでくれても。
だけど聞き捨てならない――。
「別にあたし、尻に敷いてませんが。ねぇ須王」
「………」
須王はじとりとしたような目をあたしに向ける。
「ぶはははは。ようやく付き合えた女の尻に敷かれるのが血筋なんだ。やっぱり須王もそうか、こりゃあいい」