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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「今したくないなら、今度からは電話に出るか?」
「………」
出たくないんだな、わかりやすいくらいの嫌悪の情。
「それに、モグがお前の女なら、いずれ巻き込まれる」
「……ああもう、今言え。簡潔に!」
笑いを滲ませて、ゆっくりと専務の声が聞こえた。
「例の件、ジジイはシュウにしそうだ」
シュウとは、須王が嫌いなシュウさんのことだろう。
「お前、すべてをシュウに押しつけて、逃げたままでいいと思うか?」
ギンと細められた、専務の険しい目。
低い声音の厳しい声に、空気が張り詰める。
「……俺が悪いのか?」
怒りに満ちた須王の声。
あたしの手をぎゅうぎゅうと力を入れて握られる。
「勝手な理由で、ここに集めたのは誰だ」
睥睨というより他人のように冷たい、須王の眼差し。
専務はそれをたじろぐことなく、余裕で受け止める。
「はは、それに乗ったのはお前だろう。約束を果たしてねぇのに、ほざくな」
段々と声を伝える空気が剣呑になってきて、慌ててあたしは声を出した。
「あ、あの……喉渇きません?」
「「乾かねぇ」」
ふたり即答で、はい終了。
「は……なに、シュウにお願いしますと頭を下げろと? シュウが可哀想だと思うなら、お前がなればいいだろう。俺に押しつけるな」
「須王!」
「確かに俺は、柚に会いたくてお前の提案に乗ったよ。だがな、お前がシュウのためにしたことで、俺を責めるのは筋違いだ。それはタツキも同じ意見だろう。俺らの条件を呑むほどにシュウが大事でもな、俺からしてみればシュウは何様なんだよ。俺だって……」
須王は声を震わせて言った。
「俺だって、助けて貰いたかったよ。対等だろうが。なんでシュウだけ……。俺も演技をすればよかったのかよ。その場で倒れれば」
須王から素直に漏れた真情の吐露に、専務は目を細めた。