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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
……心が痛い。
須王の気持ちを先に聞いているだけに。
助けてくれ、その言葉を無視したのは専務だ。
それなのに、庇護されたシュウさんのことを持ち出されて、須王の心はまた泣いている。
抜け出したはずのあの頃の闇が、彼を捕まえる――。
「シュウは演技じゃねぇぞ、須王。アメリカで大がかりな心臓の手術をした。あそこで倒れたから気づけて、緊急手術で助かった。間一髪のアメリカ搬送だったんだ」
専務は言った。
須王はなにも言わず、忌々しそうな表情で俯いた。
「あいつの辛さを分かれとは言わねぇ。だが、同等だと言いながら、頑なにシュウを理解しようとしねぇお前も、何様なんだよ、須王」
「……っ」
びくっと、握られた手に震えが伝わってくる。
「俺は、立場的にお前らをとりまとめる中立にいなければならねぇが、俺もひとりの人間だ。諦観であれ難関に向き合おうとする奴と、嫌だからと難関から逃げてる奴となら、どちらに肩入れしたくなるかわかるだろう」
須王は答えなかった。
答えられないようだ。
「確かにお前に酷い仕打ちをした。俺もジジイもババアも、今も尚。俺だって殺したいくらいあいつらが嫌いだよ。だが、俺が幸せになるために、シュウを生け贄にあの中に放りたくはねぇ。だから俺は、俺の自己満足的のためにジジイ側から守ってる。須王。お前が幸せになるために、出来ることはなんだ」
「……っ」
「お前がどんなに逃げようとも、血はついて回る。呪わしい血だからな」
専務は須王に言いながらも、自分に言い聞かせるように、自嘲気に言った。