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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 

「……俺達は、自分の不幸に酔いすぎて圧倒的に会話がねぇ。話したって理解されねぇと思うからだ。だけど話してみると……案外、ウマが合うかねしれねぇぞ?」

「それはねぇな」

 ぶっきらぼうに須王が言う。

「そうか? 俺はお前が嫌いじゃねぇぞ。お前からは相当嫌われているがな」

 専務は呵々と笑い、あたし見た。

「モグがいねぇと、お前とも話が出来なかったしな。本当にモグは、天の采配だよ」

「い、いえいえ、そこまでのことは……」

「照れるな!」

 怒った須王に、手の甲を抓られてしまった。

「棗から電話があったが、エリュシオンの社長に、このビルに移るように打診したのは俺だ。前社長は渋り、現社長が動いてくれた。あのひとを疑うな。彼は、エリュシオンの……膿を出す気だ」

「膿……ですか?」

「ああ。二年掛けての大改革だ」

 目から鱗だ。

「え、でも人事は二年前に、既に社長が」

「内情は知らねぇが、でもあのひとはこう言ったんだ」

 『エリュシオンを守るためなら、了解します』
 
 あたしの今までの認識が逆転する。

 社長がエリュシオンを守っていた?
 それでエリュシオンの膿を出している?

 社長なりに、エリュシオンを愛しているとでも言うの?

「というか、なぜ専務が社長と話すことがあるんですか?」

 忍月コーポレーションとエリュシオン。
 別に得意先でもなければ、兄弟会社でもないというのに。

「それはきっと……、そのうち須王が話すだろうよ」

 須王は黙秘を貫いた。

 きっとそれは、専務やシュウさんに繋がる身内話になる気がした。
 
 話してくれるかな、須王。
 棗くんも知っているだろう、話を。


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