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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 
 

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 あたしは、宮坂専務のひととなりを知っていたわけではない。
 知っていたのは、彼を構成する外側だけであり、須王と浅からぬ関係であるということくらいだ。

 それでも、あたしに縋ろうとした彼の目が必死で、それが渉さんだというのがわかれば、あたしはふたりに会話をさせてみたかった。

 そりゃあ須王は気分悪いだろう。
 あれだけ渉さんをどれだけ嫌いかあたしに語っていたのに、よりによってあたしに引き合わされたのだから。

 専務が須王の言う通り極悪人であれば、あたしは彼の頬をひっぱたく覚悟でいた。あくまであたしは須王の味方であり、専務の味方ではない。

 だけど誤解があってそれで須王が苦しんでいる部分があるのなら、その分だけでも須王から取り除いて、楽になって貰いたい……そう思ったんだ。

 専務は、須王のために怒った――。
 
 専務は、なにかの犠牲になったシュウさんを労れと言いたかったわけではない。
 恐らくは……、彼らを取り巻く環境があまりにも大きな問題過ぎて、そこから逃げるな、戦えと、そう言いたかったのだろう。

 専務が須王に怒っている時、専務は悲しそうで、なにか自噴のような痛みものも感じ取れた。
 
 専務は極悪人ではない。

 須王が専務とシュウさんを恨んでいるのと同じくらい、専務にもなにか理由や厄介事を抱え込んでいる。
 
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