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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
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超高級外車は、首都高を快速する。
大きなロットでゆるゆるパーマをかけたような、天然くせ毛の無造作ヘア。
窓から差し込む陽光が、雲ひとつない見事な蒼穹を反射したように、彼の黒い髪を青く発光させている。
眼鏡のフレームにかかる長めのひと束が、やけに色っぽい。
この男は仕草ひとつ自分の魅せ方をわかっていて、平凡この上ないあたしに圧倒的な美貌を見せつけようとしている確信犯かと思うのに、運転するその顔は真剣そのもので、邪念に曇ったような眼差しではなく。
運転に没頭している運転手の横で、あたしがただ、早瀬の美貌に圧倒されているのを早瀬のせいにしようとしていただけの、あたしの方が邪念に曇った話だと思えば、ずぅぅんと自己嫌悪に陥る。
「……お前、さっきから百面相していて、暇そうだな」
「べ、別に暇では……」
早瀬はごそごそと片手を動かすと、ぽいと自分のスマホをあたしの膝の上に置いた。
「俺、運転中だから、お前が応答して」
「は!?」
「仕事のはハンズフリーにしてる。だからそっち頼む。まあ誰も来ねぇだろうけど、一応」
ああ、確かに反対側の耳になにか機材をつけている。
「プライベートなら余計出ませんよ。あたし、勘違いした女達との修羅場嫌ですし。大体本命から電話かかってきて、誤解されたら、嫌な思いするのあなたですよ?」
「お前に出られて困るような女、いねぇって」
「……へぇ。社内で色々聞きますけどね」
常日頃噂だけは耳にしている。
昨日食われたのは誰だの、早瀬が誰と腕を組んで歩いていただの、ホテルに入っただの。また食われた女性が自慢げに、早瀬との一夜がどれだけ素晴らしいのかと、社内でお昼を食べようとすれば、そんな話ばかり聞こえてきてげっそりするから、あたしは上の食堂に毎日通う羽目となっているんだ。