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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 

「そうなんだよ、それがあまりに豪快な食べっぷりでさ、大爆笑だ」

「女性の方なんですよね?」
 
「ああ、一応はメスだな。普段はカワウソらしいが」

「カワウソって可愛いじゃないですか。カワウソからカバになる瞬間を、あたしも見てみたかったなあ」

 思わず想像してくふりと笑うと、置いてきぼりにしてしまった須王の目がじとりと向けられていることに気づいた。
 彼はすぐぷいと横を向いてしまうが、握られたままの手はぎゅうぎゅうと、彼の尋常ではない握力で握られ、悲鳴を上げる。

 すると涙目のあたしを見て、詰るような目を向けた須王は、突如顔を傾けて、キスをしてくる。

「むぅぅ……っ」

 舌までねじ込んできたために、なんとか突き飛ばすと、須王は口を尖らせてまた横を向いた。

 いやいや、今のはあたしの方が正しいよ。
 ここは公共の場、しかもじっと見ている須王の身内がいるじゃない。

「ぶははははは。モグ、この猛獣に溺愛されてるなあ。でも俺も似たようなもんで、猛獣の気持ちはわかる。ま、世間体など考えるだけ無駄だから、早々に諦めろ。モグ」

 そんなあたしと須王を、愉快そうな眼差しで見ている専務は言う。

「あ、諦めませんから、あたし。有名人の自覚を持って貰わないと!」

 この身内も無節操か!
 お前らは猿か! ……とは言えないあたし。

「ぶははははは」

「だけどなんであたし、モグラなんですか? モグラ、好きですけど」

「ん? 須王が必死にちょっかい出してるのに、お前はあさっての方向を深く深く掘って進んでいたからな。あれだけ掘って、するっと土の中に潜って須王の手から逃れられるのは、モグラしかいないだろう」

「あ、そうですか……」

 褒められているのか貶されているのか微妙だ。

「食堂にはな、実はカピバラもいるんだ」

「それはメスで?」

 須王を簡単に放置して、また専務の話に惹き込まれてしまう。
 
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