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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 
「ああ、メスだ。いつも眠そうで、のぼーっとしているのに、逃げ足は驚くほどに早い。でかいしな」

 テーブルの上にお皿を乗せて、こくりこくりと居眠りしてそうなカピバラを想像したら、ほっこりしてくる。

 カピバラはキャラクターグッズもあるから、あたしには想像しやすい。

「あはははは。カピバラさんも見てみたい!! あたしそっちにも出会ったことありませんでした。うわあ、面白い!!」

 専務は兄貴っていう気がする。
 実の兄より、よほど話しやすい。

「いつか、カバ兼カワウソと、モグラと、カピバラが一緒に食事が出来るように、お前も頑張れ」

「はい」

 でも、なにを頑張ればいいんだろう?

「……柚は俺の女だ。勝手に命令するなよ」

 俺の女……。

「じゃあ、いいか?」

「駄目に決まってるだろ!? それに柚を〝お前〟と呼んでいいのは、俺だけだ! 馴れ馴れしくするな!」

 ……ついに堪忍袋の緒が切れたのか、須王の怒りは収まらない。

「柚のどこがモグラだよ。すげぇ綺麗でしかも可愛いだろうが!」

 どどーんと効果音をつけて、須王が言い切った。
 
「いや、あのね……」

 これはいわゆる惚気話?

「お前もお前だよ。なんでモグラと呼ばれて喜んでるんだよ。声をあげて喜ぶのは、俺とのセックスの時だけにしろよ!」 

 ……この男。

「ぶはははは。独占欲が強いのも血筋だな。残念だがそろそろ打ち合わせが始まるから、会社に帰る。気安く呼んで悪かったな、須王。……モグ、今日の処はよくやった」

 謝った傍からモグと呼ばれて、須王の顔がひくりと引き攣った。

「いえ、釣ったのは専務ですから」

「いや、モグが一生懸命に土を掘って道を作ったからだ。偉いぞ、モグ」

「……っ」

「照れるなよ、アホ! なんでこいつに絆されてるんだよ!!」

 ひぃぃぃぃっ!!

 目で殺されそうなあたしに対して、専務は笑って余裕だ。
 
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