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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 


 会社に呼び戻された彼は、エリュシオンのドアを潜る前に足を止めて言う。
 
「俺、お前の男だって言って貰えるよう、頑張るわ」

「……っ」

「だからお前も、頑張れ?」

 その眼差しは、まるで悪戯っ子のように。

「え……」

 なにか不吉な予感を感じて、彼を追いかけるようにして慌てて中に入ったら、社内がざわめいていた。

 二階に居るはずの社員も、皆一階に降りてきているようだ。

「どうしたの?」

 声をかけると、皆が口々に言った。

「長谷耀が来て、早瀬先生をと応接室に」

 長谷耀って言ったら、須王とウマが合わない〝天の奏音〟のCM曲を作った音楽家だ。

 女子社員の顔を見ていれば、かなりのイケメンらしい。

「え、なんでうちに来たの?」

 長谷耀がうちと接触するのは、初めてのことだ。
 それなのに――。

「ああ、俺が呼んだ。エリュシオンに来いと」

「へ?」

 原因は須王らしい。
 嫌っていた相手を呼びつけて、そして長谷耀もその言葉に素直に従って、うちに来たというわけ?

「ちょっと打ち合わせをしてるから、しばらくは俺に取り次ぐな」

 本日女帝がお休みのため、美保ちゃんが立ち回らないといけない。
 ……げっそりしているように思えるが、考えてみれば女帝はどんなに忙しくても、疲れた顔を見せていなかった。

 ああ、それはきっと、化粧力というより、夜露死苦の賜なのね。

「あいつが来たことで驚かせて悪かったな。大丈夫だから各自仕事に戻れ」

 須王のひと声で、皆がそれに従う……前に須王は、応接室に赴く足を少し止めて、こちらを振り返りながら言った。 

「それとひとつ。俺と上原柚チーフは付き合っているから」

 場がシーンと静まり返る。

 ……この男。

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