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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 


 衆人環視の中、悪びれた様子もないままに、さらに須王は続けた。

「俺は前から柚一筋で、思いきり溺れてる。悪ぃが、この先もどんな色仕掛けも効かねぇから。それと、柚に手を出す奴は俺の敵だと見なす。以上!」

 そして彼は颯爽と応接室に赴く。
 背筋を正し、長い足を動かして毅然と闊歩する様は、さすがに王様。

 ……この痛いくらいの好奇な視線の中、あたしを置き去りにして。

 ああ、穴を掘ってしばらく引き籠もりたい。

 やだよ、怖いよ。
 あの王様、爆弾を投げていなくなるなんてあまりに酷いじゃないか!

 静けさが破られるのは一瞬――。

「チーフ、早瀬先生の恋人だったんですか!?」

「いつから付き合ったんですか!?」

「馴れそめを教えて下さい!!」

 そんな野次馬的な反応と、

「うわ……、私上原チーフにいろんなこと言っちゃったよ」

「……俺も。うわ……」

 我が身の置かれた立場を嘆く者。

「上原チーフ、LINEしません?」

「今度美味しいもの食べにいきましょうよ」

 これからの立場を確立しようとする者。

 エリュシオンは様々な人種で溢れる。
 
 ひとつ言えることがあるとすれば――。

 あの男は、あたしが否と言わせない環境を作ったということ。
 もう二度と、須王と付き合っていないなど言わせないよう、外堀を埋めたのだ。

「っ!!!」

 ……これが本当の意味での、あたしに対するお仕置きだと気づくのは、それからすぐのことだった。
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