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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
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せっかく、なんとか落ち着いてきていたあたしの環境が、須王のひと言で騒々しいものとなる。
どう客観的に考えてみても、あたしと須王は不釣り合い。
王様が雑巾がけをしている侍女に手を出しちゃいました、の図だ。
遊びから情けに移って……の説明の方が信じて貰いやすいかしら。
せっかくのティラミス効果も半減。視線と噂話とで居たたまれないあたしは、積極的に鳴り響く電話を取り応対する。
育成課には、あたし以外誰もいない。
牧田チーフに言われて動いていた茂も藤田くんも。
朝霞さんの妹と交流があった水岡さんも。
あたしと須王が話した会議室には、誰もいなかった。
あたしは、頭を抱えて席についていた今村部長に声をかけた。
「部長、すみませんよろしいですか?」
彼は企画部自体の部長だから、茂の上司となる。
須王が信頼していた彼は、実際のところどうなのだろうか。
敵か、味方か。
わからないままに、育成課の社員がどうなったのか聞いてみる。
「皆が辞職を申し出た。一応は保留にしている」
彼は疲れた顔で笑った。
「全員ですか?」
「ああ。全員、揃って一身上の都合らしい。一応今日は帰らせた」
部長の顔が疲労に翳って、今にも倒れそうだ。
彼らはあたし達が席を外している間、自ら告解して罪を償う道ではなく、隠蔽して放棄する道を選んだのか。
……エリュシオンは、そんな簡単にやめられる会社だったのか。
あたし、頑張ってきたのにな。
でも彼らは、頑張れないのか。
再生したいと思わないのか。