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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「育成課で、なにかトラブルでもあったのかね?」
「……い、いえ別に」
「じゃあなぜ、きみ以外の社員がこぞって辞表を出すんだ……」
答えられるわけがない。
彼らがオリンピアに情報を流していたからなんて。
「万が一、渡部が育成課を辞めたら、上原チーフは課長、大丈夫かね?」
最初なにを言われたのかわからず、きょとんとしてしまった。
「きみさえやる気があるのなら、課長に推薦するが」
「あ、あああ、あたしはまだまだ、仕事の勉強中です。上に立つよりも下で働いている方が性に合います。課長職には、もっと適任者がいると思います」
「……たとえば?」
「たとえば……」
わからない。
いつもあたしは育成課でしなくてはならない自分の仕事だけでいっぱいいっぱいで、周りに目を向けていなかった。
「育成課を取りやめてどこかと統合するか、どの方法をとるかはまだわからないが、育成課をひとりではやらせない。課長も部下もいないきみひとりの状態であるのなら、きみがどこかに転属になることを覚悟していてくれよ」
「はい……」
あたしはエリュシオンでずっと企画をしてきた。
それが今さら音響とかライセンスとかであったら、勝手がわからない。
また足手まといになるんだろうな。
課長を連れてくるか、課長になるか。
部下なんていうものに、誰かなってくれるのかなぁ。
凄くシビアな選択を突きつけられた気がする。
課長……、須王がしてくれないだろうか。
だけど須王は、今それどころじゃないし、そういう肩書きは枷になりそうな気がするから言い出せない。
育成課が、消えるのは嫌だ。
担当している顧客もいるのに……。
エリュシオンからこうしてひとつ、またひとつとなくなっていくのは寂しくて。
宮坂専務の言うとおり、社長が膿出しをしているのだとしたら、育成課がその膿にされてしまうと思ったら、悲しくてたまらなかった。