この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「あ、そうだ。帰り、病院の近くで下ろして貰ってもいい?」
「なんで?」
「お買い物したいの。今がどういう状況下はわかっているんだけど、ちょっと寄りたいところがあって」
「わかった。俺も行く」
「……ひとりでも歩けるんだけどね」
「駄目だ。それに……外でデートしてなかったから、しようぜ?」
「デ、デートって」
「恋人らしいことしねぇと、お前にそっぽ向かれるしな」
「そ、そんなことは……」
ダークブルーの瞳が、からかうような光を宿している。
「俺が、お前とデートしてぇんだよ。九年前から、お前と学校の外でも手を繋いで歩きたかったから。だから遊園地、すげぇ楽しかったし」
「……っ」
「今はこんな状況だけど、必ず俺がなんとかするから。だから今は、楽しいことだけを考えよう。……出来る範囲で、思い出を作ろう」
「……ん」
「俺が守る」
握られた手は力強くて、頼もしい。
棗くんの盗聴器探索機にもひっかからなかった車内。
そしてあたしや須王のカバンや服も異常なし。
だったらきっと、どこに行こうとしているのか……、誰もわからないはずだから。今あたしが初めて口にしたことが、敵にわかるというのなら、それは超能力集団だ。それはありえないと思うから。
さあ、束の間のお外のデートを。
ふと牧田チーフの姿が頭に浮かび、それを振り切るように頭を振る。
大丈夫、あたしはあんなにはならない。
須王がいるんだから。
だけどやはり、なにか不安だった。