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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
 

 女の扱いに慣れているだろうはずの須王の、押され気味の様子を見ていたら、彼が以前にぼそっと、嫁は苦手だと口にしていた意味がわかった気がする。

 嫁は、世間体を気にせず、直球でパワフルだ。
  
 クマみたいなおおらかな小林さんだからこそ、そんな夫人を包み込んであげられるのだろう。
 離婚していないところを見れば、やはり須王は、非現実的な偶像……アイドルにしか過ぎないのだろう……とは思うものの、夫人が作る世界から除外されているあたしは、他人事のように物珍しい店内に引き寄せられた。

 壁の前にあるガラスの棚に陳列されているのは、クラスターと名札が掲げられている、手乗りサイズの天然水晶の山。
 さすがに水晶やエメラルドはすぐわかったが、その剣が逆さまに突き出しているような刺々しい山に、様々なブレスレットがかけられているのを凝視。

 小さな石、大きな石、大きさも色も色々あり、ミックスしたのも格好いい。
 全員お揃いで片手の手首にしているところを思い浮かべて、ひとりにやにやしてしまった。

 どんなデザインや石にしようかと腰を屈めながら魅入ってしまえば、須王に声をかけられ、助けてくれと言わんばかりに手を強く握ってくる。

 あたしの護衛でもある彼としては、この場から逃げ出したいのは山々だろうけれど、あたしをひとりにさせたくない……そんな煩悶とした心境なのかもしれない。

 女なんて数多相手にしてきたはずなのに、今にも須王を食らわんばかりのパワフルな人妻は、須王を辟易とさせている。
 これは見物かもしれないと、くすりと笑ってしまう。

 でもそろそろ、助けて上げなきゃ。
 須王が怒り出して、デパートでお仕置きし始めたら怖いもの。
 
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