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エリュシオンでささやいて
第9章 Loving Voice
「あの、すみません。ちょっと作って頂きたいものがあるんですが」
助け船の如く、だけど客としては正当な権利で尋ねる。
「はい、なにか?」
そういいながら小林夫人は、彼と手を握っている(正確には須王が助けを求めている)のをじっと見て、あたしの顔を見ずに言う。
「ブレスレットを6つ作って頂きたいんです」
「あら、ありがとうございます」
売り上げの方に反応した夫人は、途端ににこやかな顔となる。
「はい。共通な石と個人的な石を入れて貰いたいんですが」
絆のように皆を結びつける共通の石と、そのひとにしかない個性的な石。
それがあたしの目論んでいるブレスレットだ。
……お値段と相談する部分はあるかもしれないけれど。
「共通な石というと、なにか決めていますか?」
「それが、パワーストーンというものはあたしさっぱりで」
夫人はあたしをレジの横にある机のところに案内し、あたしと須王を椅子に座らせた。
「共通ということは、皆さんに願うことはなんですか?」
「皆に願うことは……元気で仲良く笑っていて欲しいということです」
夫人は、綺麗な笑みを見せた。
「お好きな色はあるかしら」
「特にはないんですが……」
「でしたら直感でお選びくださいね」
夫人は次々に、大きな棚のような引き出しにある、小箱に入った色々な種類の石を見せてくる。
「あ、この石の色が綺麗。うわあ、素敵。こんなのもあるんですか」
見ていたら時間だけが経ってしまい、選ぶことを忘れてしまう。
その中で好きだと思って指をさした石が、棚から出されていく。
あたしが選んだ石の種類は三十個あった。
その中で、紫系統、黒系統、赤系統とそれ以外に分けていく。
「元気で仲良く笑っていて欲しい……ひっくり返せば、ずっと元気ではいられない事情がある、仲良くなれない事情がある、笑えなくなる事情がある……いずれ関係が、お客様の意図とは反対に破綻してしまう不安が、お客様にはあるのだと思います」
鋭い指摘に、あたしはびくっとした。