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エリュシオンでささやいて
第3章 Dear Voice
「信じてねぇな、その返事の連続は。だったらアドレス帳とか履歴とか全部見てみろ。暗証番号は、0214だから」
あたしは頭を横に振る。
「別に見たいとも思いません。幾ら自慢されても、あなたの女性関係、まるで興味ないですし」
それは本心。
しかしそれで、引っ込める早瀬ではなく。
あたしの膝の上に放置されているスマホを取り上げると、片手でパパパと画面を弄ってまた、律儀にあたしに返した。
「それ、アドレス帳だから。履歴はホームボタン押して……」
「だから別にどうでもいいですって。これ、お返しします」
その際、視界に入ってしまった、早瀬のアドレス帳。
登録されているのはふたつ。
〝棗〟と〝渉〟
「あたしの方がまだ登録してる……」
ぼやいてしまうほどの空欄の多さ。
「ああ、そうか。重要なひとは仕事の携帯電話に……」
「仕事の電話の方は仕事しか入れてねぇよ。この電話には、俺の親友とこの世で一番嫌いな奴しか登録してねぇ。出たくねぇから登録してる」
好奇心で思わず聞いてみてしまった。二分の一の確率だったから。
「嫌いなのは、このトゲさん? 渉さん?」
「トゲじゃねえよ、ナツメ!!」
「ナツメさんか……」
「お前も知ってるだろ。白城棗(しらき なつめ)」
「さあ?」
「高三の同級の男だろうが。お前、あいつと同じ3-2だろう!?」
白城という名前の記憶を辿るより先に、あたしの心が禁忌のワードにひっかかった。
高三――。
忘れたい思い出が詰まったそれに、心臓がどくりと揺れた。
「だから俺は「この話はやめて下さい」」
あたしは固い声でそう言うと、早瀬の膝の上にスマホを返した。